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この小説は、プリン体さんが描いたアイドルがボクシングに挑戦する絵を元にストーリーを考えた作品です。
小説に掲載されているイラストは、プリン体さんが描いたもので作者の了解を得て掲載させていただいています。
小説の執筆、イラストの使用を承諾していただきプリン体さんに感謝します(^^)


第1話 土岐乃カナ、ボクサー始めます

 テレビに映る自分自身のライブ映像を見て、カナは振り付けをしながら歌っていた。自分の部屋だというのに、フリルがついていてスカートの丈が短くてぶわっとボリュームのある水色と白模様のドレス。普段、ステージで着る衣装だ。
 家で練習するときもカナは極力ステージ用の衣装を着ていた。それは本番を意識してというのはもちろんだけれども、そもそもカナ自身がアイドルのコスチュームが大好きだからというのが大きかった。アイドルのコスチュームだったらなんだっていいってわけじゃない。最近の主流になっている制服ベースの衣装をカナは嫌っていた。アイドルといえば、可愛いドレス型のコスチューム。それは、80年代のアイドルの映像を見て彼女たちに憧れて目指すようになったカナとしては当然の思いだった。もちろん、ステージの衣装はすべてドレス。制服だけは嫌だと突っぱねた。そこだけは絶対に譲れないのだった。ドレスコスチュームの復権。それがカナにとってアイドル活動をする上で一番のテーマなのだから。
 でも、制服コスチュームの壁はあまりに大きかった。ドレスコスチュームを着ても今のアイドルファンはなかなか振り向いてくれない。制服コスチュームを突っぱねたのが仇になって仕事はいつまで経っても増えることはなかった。それどころか今年に入ってただでさえ少ない仕事がさらに減ってきている。崖っぷち。崖っぷちアイドルなのである。
 部屋のチャイムが鳴って、カナは玄関の扉を開けた。
 目の前にいるのは、もさもさした髪型のおじさん。事務所の社長である。社長はあんぐりと口を開けていた。
「お前、家でもステージ衣装着てんのか…」
「あっはい、本番を意識した練習をしたくて」
 社長に指摘されて、カナは自分がステージ衣装を着ていることに気付き、顔を赤く染めた。
「そりゃ、ご苦労なこった」
「社長、どうしたんですか、突然」
「話があってな、いいか」
社長はそう言って部屋の奥に目線を向けた。
「あっはい、どうぞ」
 カナは体を半身にして左手を部屋の方へ伸ばして、手招いた。
 社長が「悪いな」と言って部屋へと上がる。居間に入り、社長はソファーに腰かけた。カナが社長用にコーヒーを用意して自分もソファーに腰かけた。
「社長、この前はごめんなさい。何度も音程外しちゃって」
「いいよ、別に」
「でも、あれから歌の練習たくさん積んできたんで次は大丈夫です」
「いいんだよ歌は」
「でもっ」
「もうねえんだよ歌の仕事は」
「えっ…」
「お前、今まで何度も音程外してきたろ。ピンのアイドルなんだから今のご時世、音程くらい合わしてくんねぇと営業の声もかからなくなるんだよ」
 カナはシュンとした表情をして下を向いた。
「安心しろ、テレビの仕事を取ってきた」
「えっテレビっ。久しぶり。バラエティですか?」
 カナは表情を明るくして顔を上げた。
「バラエティじゃねぇ。お前、バラエティでも気の利いたこと何も言えねぇだろ。お前はアイドルとしては顔が中の下なんだから、喋りも出来ねぇとな。中の下らしくいじられるように話を振るとかな」
 うう…中の下って二度も言わなくても…。
「じゃあ…歌番組でもなくてバラエティでもなくて、ほかにありましたっけ?アイドルが出られるような番組って?」
「お前、『ガチでいきます』って番組知ってるか?」
「あ~それ知ってます。深夜のやつですよね。芸能人が無茶な挑戦をするっていう」
 カナは自分で言ったことで、嫌な予感を抱いた。
「無茶な…」
「あぁ…売れてないアイドルがボクシングでチャンピオンを目指して人生を変えるっていう企画が出てる。お前、これに出ろ」
「ボクシング…」
 言葉にして、カナは頭の中で自分がリングに上がる姿を想像した。殴られる姿。腫れる顔面。
いやいやいやっ!そんなの可愛くない。
「あたし…体力ぜんぜんないんで…」
「じゃあ今日から走れ」
「あたし、一日の終わりにはあんず酒を飲まないとダメなんで…」
「じゃあ、今日から野菜ジュースにしとけ」
「あたし…」
「カナっ」
 社長に強く名前を呼ばれ、カナは身体を硬直させて「はいっ」と返事した。
「いいか。俺はアイドルを続けるか、芸能界を辞めるか、どっちにするかって聞いてるんだ」
 社長に真剣な目で迫られて、カナは泣く泣く頷いた。
「じゃあ…やります…」
「おしっ、その返事を聞きたかった」
「でもっ…」
「あっ…?」
「試合に勝ったらリングの上で一曲歌っていいですか?」
 えへへって笑いながらカナは聞いた。
 社長は髪の毛をまさぐり、首をぐりぐりと動かす。そして、カナに目を向けた。
「チャンピオンになったらにしとけ」
「はい…」
 カナはまたもシュンとして頷いた。

 チャンピオンになれたら歌える。チャンピオンになれたら歌える。
 カナは心の中で何度もその言葉を唱えながらサンドバッグを叩く。そんなカナのボクシングジムでの練習風景を社長と番組プロデューサーが遠くから見つめていた。
「けっこう、サマになってるでしょ」
 プロデューサーが社長に振る。
「始めて二か月って感じにはみえないですね。どんなマジックかけたんですか?」
 社長が関心しながら言う。
「元世界チャンピオンの中山さんをマンツーマンでトレーナーにつけてますから」
「あぁ…なるほど」
 社長が頷く。
「思ってたよりも運動神経あるから助かってるってのもありますけどね」
「あいつ、結構器用に出来るんですよ。歌もダンスも平均よりは上で」
「へぇっ」
「練習にかぎってですけどね。本番はからっきしで」
 社長が首をひねりながら言う。
「極度の上がり症なんですよ、あいつ」
「それでよくアイドルやってますね」
「まぁ、アイドルへの憧れってやつはものすごくある奴なんで」
「なるほどっ、それであんなにボクシングの練習も一生懸命やってくれてるってわけですか」
「そんなところですね。ところで、試合に勝てますかね、さっきも言ったとおり、本番にからっきしな奴ですから」
「勝たないと絵にならないですから弱い相手選びましたけどね。二戦二敗の」
「そうですか。あとはあいつ次第ってところですかね」
「ええ。お膳立ては十分にしたんで勝ってもらわないと困りますよ」
 プロデューサーはそう言って眼鏡を人差し指で上げた。

「青コーナー、土岐乃(ときの)カナ入場です。おおっこれは可愛らしい服装です。フリルのたくさんついた水色のアイドル衣装を上に着ての入場だ~。早くもファンからは黄色い歓声が飛んでいる~!!」

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 カーンカーンカーン。
 鳴り響くテンカウントのゴング。観客席から飛び交うあまりにお粗末な試合内容への怒号の声。
「土岐乃カナ、惨敗です!!注目を集めたのは煌びやかなアイドル衣装を着ていた入場まででした。試合が開始されてからは何も出来ず!!一分ももたずKO負けに終わりました~!!」

 リングの上で大の字になって倒れたまま痙攣を繰り返すカナ。顔が別人のように醜く腫れ上がった顔は、試合前まではアイドルとしての可愛さを振りまいていただけに虚しさすら漂う。対戦相手は二戦二敗の咬ませ犬。そんな相手にもまともにパンチすら打てず醜態を晒してリングに沈んだカナの姿に失望の眼差しが向けられる。アイドルであるカナが好きで応援に来たファン、事務所の社長、番組関係者。そんな中、一人ほくそ笑む美少女がいた。
「な~んだぜんぜん弱いじゃん。お前もボクシングやってみないかって社長から言われたけど、これなら愛梨の方がぜんぜん強いよ」
 彼女の名前は深川愛梨。人気アイドルグループ、キャンディクッキー++(プラスプラス)のメンバーの一人。そして、50人以上いるメンバーの中で下位の序列に位置する彼女もまた崖っぷちアイドルの一人だった。

To be continued...?


gakeppuchi1sss
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小説・崖っぷちアイドル | コメント(0)
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