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今日の更新

2016/08/30 Tue 20:36

こんばんわ~へいぞです。

新作の小説「君がリングに上がる」第1話を掲載しました。
僕の処女作で「リングに上がる少女」という作品がありまして、過去の作品を再掲載している今回を機に15年ぶりに掲載しようと思ったんです。でも、読み返してみると拙さが目立ってこのまま掲載するのは厳しいと思ったので修正を加えたんですけど、もはや別作品というくらいに変えてしまったので、新作として発表することにしました。タイトルも変えていますので、リメイクではなく新作として楽しんでもらえたらと思います。
いつも小説は試合まで書き上げてから連載を始めるんですけど、今回は試合シーンで筆が止まってしまってるので、見切り発車で連載を始めました。ですので、次の掲載はいつになるか分かりません。間隔をあけずにというよりもちゃんと完結できたらいいなぁというスタンスで連載していこうと思います(^^)
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 天真爛漫な女。時代錯誤な表現かもしれないけど、綾乃はその形容がよく似合う少女だ。明るくて元気で勝ち気な性格で運動も得意。小学生の時は周りの娘を守るためにクラスの悪がきと突き飛ばしあいの喧嘩だってしてた。だからってとタクミは思う。
 隣に立つ綾乃の顔を見た。
 きれいな弧を描く二重の瞼に純真な輝きを放つ瞳、うっすらと口紅をつけたかのような透明感のあるさくらんぼ色の唇。清涼感と仄かな色香を漂わせるその顔はショートカットの髪形とよく合っていてクラスの中でも一際目を引くルックスをしている。
 綾乃は少女から大人の女性の顔に変わりつつある。でも頭の中だけは子供のままでちっとも変わらない。
「ねぇ、聞こえてるの」
 綾乃がこちらを見るけれど、目を合わせるつもりはなかった。
「あぁ・・・聞こえてる」
 タクミは仏頂面のまま返事をする。綾乃と学校を出てからの間、ずっとそう接している。
「なんかぼうっとしてるよね」
 綾乃はタクミのつれない態度を気にはせずに不思議そうに見つめ続ける。それから、唇に右手の指をつけて、意地悪そうな笑みを浮かべた。
 流石にタクミも気になり、綾乃の顔をふてくされたように見た。
「なんだよ」
「科学のテストの点数が悪かったからでしょ」
「違うって」
「ごまかさなくたっていいんだよ。あたしタクミの点数見ちゃったんだから」
「そうじゃない」
「40点なんだから悪くないことはないでしょ」
「テストの点数が低いのはあってるけどそうじゃない」
「じゃあなに?」
「・・・」
 墓穴を掘ったとはこのことかもしれない。タクミは唇を歪めながら携帯電話をポケットから取り出して操作した。黙って画面を綾乃の顔の前に見せつけた。
 綾乃の表情が真顔になる。見られたくないものを見られたバツの悪い思いになっているのかもしれない。
 その画面には、綾乃が黒のスポーツブラを着て赤いボクシンググローブをつけてファイティングポーズを取っている姿がバストアップで映っている。右隣には同じ格好でファイティングポーズを取る若い女性の姿。二人の間にはVSの文字。つまりは、ボクシングの対戦カードの画像だった。
 しかし、タクミの推測を裏切るように綾乃ははしゃぐように表情を崩し右手で携帯電話に触れ、画面に近付ける。
「これって今度の試合じゃない。タクミ、観にきてくれるの!?」
 そう言って、綾乃はタクミを見た。
「いかないよ。その前に何で綾乃がボクシングの試合に出るんだよ」
「あっ、言ってなかったっけ、あたしがプロボクサーになったの」
 あっけらかんと話す綾乃にタクミは苛つくように片目を細めて視線を向けた。
「プロテスト合格したんだよ」
「ボクササイズするまでは聞いてたけど、試合は聞いてない」
「会長さんから薦められちゃったんだもん。お前は才能あるって」
「怪我したらどうするんだよ」
「ボクシングの試合なんだから怪我はするでしょ。スポーツなんだもん」
「顔に傷が残ることだってあるし」
「そんな心配してたら何も出来ないよ」
 一つ一つきちんと返され、タクミは口ごもった。柄にもなく感情論で話して、正論で撃墜されている。これじゃ綾乃と話せば話すほど苛立たされるだけだ。
「なんだかなぁ」
 綾乃がそっぽを向いた。
「タクミといたらモチベーション下がっちゃう」
 綾乃が背中を向けたまま言う。
「間違ったこと言ってないだろ」
「あ~もうその反応がつまんない」
 タクミは唇を強く閉じてへの字に曲げた。
 なんだよその言い草は。心配してやってるのに。

小説・君がリングに上がる | コメント(0)

「Seven pieces」完全版

2016/08/28 Sun 13:58

こんにちは~へいぞです。

今日の更新は「Seven pieces」の再掲載です。
この小説は、漫画の「賭博黙示録カイジ」を元ネタにして書いた作品です。
地下ボクシングものなので、展開を大胆にして書くことができたし、あえてそこを意識して作りました。
とにかく続きが気になってもらえたらなぁと。
今回、再掲載するにあたって、エピローグを追加しました。「エピローグを読みたい」という声があったので、今回を期に書き上げました。これが完全版という感じでしょうか。

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「Seven pieces」

第30話~最終話
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小説・Seven pieces | コメント(0)
「Seven pieces」

第20話~第29話
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「Seven pieces」

第13話~第19話
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「Seven pieces」(連載時期 2002年 2010年)

「Seven pieces」というボクシングゲームに参加しなければならなくなった和葉の運命は・・・。
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小説・Seven pieces | コメント(0)

拍手コメントへの返信

2016/08/22 Mon 00:05

こんばんわ~へいぞです。

ここ数年のところ、少女漫画を読むことが増えました。女性作者の作品って心情を描いてることが多いので、漫画なのに小説を読んでいるような感覚があるんですよね。小説を書く上でも参考になるなぁと思って読んでます。

拍手ありがとうございました。
コメントへの返信が、500字を超えてしまったので、こちらで返信を書きますね。
今後もコメントへの返信をブログ上にも載せようか悩んでます。
ブログに載せた方が確認が楽な反面、デメリットもあるかと思うので。
ご意見、あれば参考にしたいと思います。

>HAYASEさん
ありがとうございます(^^)幼馴染同士の対決という設定は僕もとても気に入ってます。作品に物足りなく感じた点もどんどん書いてもらいましてかまいません(^^)次の作品を書く上で参考になります。
女子ボクサーがリングの上の主役ですから、彼女たちの心境をもっとみたくなりますよね(^^)
作者が語るような文体だったり物語を俯瞰するような神視点の文体だったら要所要所でいろんなキャラの心情を描くこともできるんですが、僕は一人のキャラの視点で固定して描く文体なので、他キャラの心情を描くのは難しい欠点をもってます。
一人の視点で描くことでそのキャラに感情移入しやすくなり物語にも入りやすくなるメリットがあるんですけど、一方で他キャラの心情を描きづらくなるデメリットもあって、そのへんの兼ね合いをどうするかは、永遠の課題なのかもしれません。
最近は女子ボクサーの心情をより見たいという思いが強まってるので、もう男キャラを主役にしてその視点で描くのは止めようようかなという思いもあります。
とは言いながらも、今書いてる作品は「リングに上がる少女」のリメイクで、元作品同様に男キャラの視点で描いてるんですけども(^^)
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本日の更新

2016/08/20 Sat 23:48

こんばんわ~へいぞです。

今日の更新は「おさぼく」の再掲載です。
この小説は、「ラブファイト」をテレビで観て、ボクシングをしている幼馴染の男女の関係もいいなぁと思い書きました。
昔に書いた「リングに上がる少女」の設定も気に入っていたので幼馴染同士の話ということで、取り入れて作りました。
再掲載の準備をしながら気になったのは、ヒロインの遥花の名前が「リングに消えゆく焔」のヒロインと同じ名前なんですよね。
同じ名前だと紛らわしいので、「おさぼく」のヒロインの名前はいずれ変えようと思います。ヒロインの名前のネタがだいぶ枯れてきているので、結構悩んでます(笑)
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おさぼく」

2016/08/20 Sat 23:41

「おさぼく」2012年掲載

幼馴染の遥花は俺と同じボクサーの道を選んだ。連戦連勝でスターの道を歩む遥花の前に立ちはだかったのは・・・。



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小説・おさぼく | コメント(2)

本日の更新

2016/08/16 Tue 21:09

こんばんわ、へいぞです。
今日の更新は「だから少女はリングに立った」の再掲載です。

再掲載するにあたって五年ぶりくらいに読み返しましたけど、当時の自分の文体にびっくりしてしまいました。当時好きだった作家さんの影響をだいぶ受けていたみたいです。たぶん、十代の少女の心情をリアルにポップに描きたくてこういう文体で書こうとしたんでしょうね(できたかはともかく・・・)。唯一の一人称であることからちょっと異質な作品かもしれません。これはこれでこの作品にしかない味わいがあって良いかなと読み返して思いました。それから文章は少し手直ししました。
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「だから少女はリングに立った」 2010年初掲載

初めてプロのボクシングのリングに上がる10代の少女の物語。

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小説・だから少女はリングに立った | コメント(0)
こんばんわ、へいぞです。

昨日完結した「リングに消えゆく焔(ほのお)」ですが、最後まで読んでいただいてありがとうございました(^^)
この作品は綺麗に完結しているので続きを書くことはたぶんないと思いますけど、遥花とエリカに関して、頭の中でビジュアルはだいたい出来てるので、いつか彼女らの絵を描きたいと思ってます。今は絵を描ける環境が整ってないのでいつになるかは分からないですが、気長に待ってもらえたらと思います。忘れたころになるかもしれません。衝動に駆られて違う小説のキャラを先に描いてしまう可能性もなきに・・・。
それと、来週から過去に書いた小説をアップしていこうと思ってます。

最終話も拍手ありがとうございました。コメントには返信させていただきました(^^)
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編集後記

2016/08/12 Fri 17:05

こんばんわ、へいぞです。

今日の更新は「リングに消えゆく焔(ほのお)」の最終話です。
気づいている人もいるかもしれませんが、今回の作品は擬音を一度も使わずに書きました。
意識して描いたわけではないんですけど、これまでと違う試合の表現をしたいと思っていたら自然とそうなりました。
これまでいくつもの小説を書いていてマンネリを感じていたので新たな楽しみ方をしたい思いがあったんですね。
僕自身は新鮮な気持ちで書けたし、読んでいる人たちにとってもこれまでの小説とは違う楽しみを味わえてもらえたらうれしいです。

拍手ありがとうございました。コメントには返信させていただきました(^^)
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 遥花はドアをノックして、会長室の中に入った。この部屋に入るのはおろか、ジムに来ることさえ三週間ぶりだった。
 エリカとの試合が終わって以降、生活からボクシングを遠ざけていた。
 机に座り書類に目を通していた祥三が顔を上げこちらを見る。
「どうした、急に。気持ちの切り替えでも出来たのか」
 祥三は珍しく愛想笑いをみせた。他の人では気付けないほどぎこちなく微かな笑みだった。
「あたし、ボクシング辞めるから」
 祥三が真顔になり、左右の掌を組む。
「そうか・・・分かった」
 祥三はそう言っただけで口を閉じた。
「ねぇ・・・止めないの?」
「あぁ・・・遥花が望んでいるのなら止められないだろ」
「そぅ・・・」
 遥花は下を向く。
「遥花・・・」
 遥花は再び祥三の顔を見た。
「これまでありがとう」
 祥三は優しい目をしていた。
「それとな・・・すまなかった」
 祥三が左右の掌を組んだまま、頭を下げる。
「俺はお前を気持ちよくリングに上げられなかった。申し訳ないと思ってる」
「何のこと?」
「好きじゃなかったんだろ、ボクシング」
 遥花の表情が固まった。
「気付いてたんだ・・・」
「俺はボクシングが好きでもないお前をリングに上げちまった。何度ももういいという気持ちになった。でも、やっぱり言えなかった」
 祥三が目を瞑り口元に笑みを作る。
「見たかったんだ、遥花が世界チャンピオンになるのを」
「お父さん・・・ゴメンあたし誤解してた。お父さんはあたしにジムの借金を返すことを期待してたと思ってた」
「いや、どちらにしろ、ボクシングが好きじゃない遥花をリングに上げたことには変わりないからな」
 胸の辺りが温かい。心臓が鼓動を打つたびに気持ちよく感じられる。
 あたしはボクシングが好きじゃない。その思いは本心なんだろうか・・・。
 遥花は胸に手を当てる。
 あたしはボクシングを・・・。

 世界チャンピオンという言葉に反応して、遥花は足を止めた。電気屋の店頭にある大きなテレビからの音だった。アナウンサーがニュースを読み上げている。世界チャンピオンの前田明人さんが引退を表明したニュースだった。
 ニュース番組でボクサーの引退が報道されることは珍しい。多くのボクサーが人知れず引退していく。日本チャンピオンクラスでもそうだろうし、女子ならなおのことそうだ。
 ニュースが代わり、遥花はその場から離れた。駅までの道を進み、赤信号の横断歩道で足を止めた。
「遥花ちゃん」
  聞き覚えのある声。昔、同じ体験をしたことがある。それは一年前のこと。遥花は後ろを振り向いた。
「橘君・・・」
「久しぶりだね。どこに行こうとしてるの?」
  一年ぶりに会うユキトは前と変わらぬ穏やかな表情をみせる。
「お茶の水。友達とこれから会うの」
「そうなんだ」
「橘君は?」
「後楽園ホールだよ。町田選手の試合だけは一度見ときたくてね」
「研究熱心だね」
「ボクシング以外に趣味がないだけだよ」
 そう言ってユキトは小さく笑った。
 信号が青になり、横断歩道を進む。渡りきった後も二人は並んで歩いた。ユキトの行き先が後楽園ホールなら駅まで同じ道だ。
 遥花はユキトの顔を見た。
「エリカの試合、残念だったね・・・」
「うん、後少しだったんだけど・・・」
 ユキトはこちらを見ずに言った。沈んだ思いが声から伝わってくる。
 三ヶ月前、エリカは世界タイトルマッチに挑戦した。五度も防衛しているチャンピオンに善戦をしたものの、八ラウンドに二度ダウンを奪われてKO負けに終わった。それから一ヶ月後、タイトルマッチで負ったダメージが原因でエリカが網膜剥離になったという情報を父から知らされた。つまりそれは―――。
「エリカの目の怪我は大丈夫なの?」
「手術には成功したんだ。日常生活を送る分には問題ないよ。でも、もうリングには上がれない・・・」
 そう言ってユキトは息をついた。
「そう・・・」
 遥花も息をつく。
「エリカはまだ闘いたがってる?」
「まあね。次闘ったら間違いなく勝てるって言ってるくらいだから」
「闘いたくても闘えないんだね・・・」
 遥花が呟いた。
 二人の間に沈黙が続く。湿った空気を変えたくて遥花は違う話をふった。
「今は誰を教えてるの?」
「いや、実は今はトレーナーをやってなくて」
「えっ・・・」
「西園ジムを辞めたんだ。けじめをつけなきゃと思ってね。エリカが引退することになったのはトレーナーだった僕の責任だから」
「辞めるまでしなくたって・・・」
「いや、これくらいしないと。自分の時の反省を活かせなかったから、もう一度トレーナーを一から勉強したい思いもあったんだ」
「橘君は変わらないね」
 遥花はユキトに笑みを向ける。ユキトの純粋な気持ちに触れるとほっとする。
「そう?」
 ユキトが照れ臭そうに返した。
「どんなに辛いことがあっても絶対にぶれないでいられる」
「そんなことないよ、人がいないところじゃ泣き言ばかり言ってるよ」
「橘君が?そうなの?」
「心の中じゃね」
 ユキトが口元を崩した。
「そんなのあたしはしょっちゅうだよ」
 遥花もくすっと笑った。
「じゃあ今は別のジムでトレーナー?」
「それがなかなか見つからなくて。トレーナー求職中だよ」
 ユキトは後頭部を撫でた。
 だったら、うちのジムにこない?
 ふとよぎる思い。ずっと言いたかった。臆病で言い出せず苦しい思いをしてきた。でも、それはたぶん昔の自分の声なのだと思う。
 遥花は改めてユキトに顔を向ける。
「あたし、またリングに上がることにしたの」
「えっホントっ、それは良かったよ」
 ユキトが嬉しそうに笑顔をみせた。
「今度の試合は復帰じゃなくて、デビュー戦みたいな気持ちでリングに立てると思うの」
 遥花の言葉にユキトがきょとんとした目をする。
 新しく闘う理由ができた。それは誰のためでもなく自分のため―――。だからもう自分の気持ちに迷わない。
「やっとボクシングを好きになれたから」
 そう言って遥花は笑みを浮かべた。

 おわり
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本日の更新

2016/08/09 Tue 20:31

こんばんわ、へいぞです。

今日の更新は「リングに消えゆく焔(ほのお)」の第5話です。
物語は佳境に入りました。次回で最終話になります。

拍手ありがとうございました。コメントには返信させていただきました(^^)
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「汚らしいのよ」
 エリカが不快そうに顔をしかめて言ったが、遥花は反応すらみせずにダメージに苦しむ表情をブザマに晒し続けるだけだった。
 エリカがめり込ませていた右拳を引き抜き半身を翻すと、支えを失った遥花の身体が前のめりに崩れ落ちていく。
 顔から沈み落ちお尻がつき上がる。頬がキャンバスに埋まり歪んだ口からはなおも唾液が垂れ流れ続けていた。
>>続きを読む・・・
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本日の更新

2016/08/05 Fri 22:33

こんばんわ、へいぞです。

今日の更新は「リングに消えゆく焔(ほのお)」第4話です。
物語はいよいよ試合に突入です(^^)
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 場内に悲鳴のような歓声が上がる中、第5ラウンド終了を告げるゴングが鳴った。その音と同時に挑戦者の軽やかなステップがぴたりと止まる。目の前で両腕で顔のガードを堅め棒立ち状態のチャンピオンの姿に関心を示さずにさっと踵を返し、青コーナーに帰っていく。ざわめく場内の中でエリカは挑戦者とは思えないほどの冷静さをみせる。
 数秒遅れて遥花がガードをゆっくりと下ろし赤コーナーへ戻っていく。肩で息をして首が前に垂れ背中が丸まっているその様は、これまでの遥花の防衛戦からは考えられない姿だった。
 序盤から互角の闘いが繰り広げられた中で迎えた第5ラウンドに、一瞬の攻防が試合を揺るがせた。右のパンチを打とうとした遥花の顔面をエリカの左ストレートが鮮やかに打ち抜いたのだ。頬がひしゃげるほどのパンチの威力に遥花は膝が折れ、その後は防戦一方となった。完全に手が止まりゴングに救われた形でインターバルを迎えた遥花は、スツールに座りながら憔悴した表情で天を仰ぐ。
 右のパンチに合わせられたあのカウンターは、今までのエリカにはないテクニックだ。でも、偶然パンチがカウンターで当たったとは思えなかった。
 カウンターパンチはユキトが得意としていたパンチだった。遥花の中で忘れたい思いが蒸し返される。ユキトの夢をエリカが継いだ。それはユキトのボクシングもエリカが継いだということ。そんなの認めたくない・・・。
 閉じ込めていた感情が広がっていく。自分が自分でなくなっていくようで、遥花は心の中でイヤだと首を横に振った。
 勝たなきゃ・・・。エリカに勝てばこの苦悩からきっと解放される。

 第6ラウンドのゴングが鳴った。遥花はガードを上げて距離を取る。まだ下半身に力が入らない。悔しいけれど、打ち合うにはもう少し足のダメージの回復が必要だった。
 ガードを固める遥花にエリカのパンチが何度となく襲う。左と右の鋭いコンビネーションに遥花の身体が何度も揺れた。劣勢の状態が続くがクリーンヒットはまだ許していない。それでもガードの上からダメージは伝わってくる。体力を削られながら足の回復を図る苦しい状況。もう少し・・・。心が折れないよう遥花は自分に繰り返し言い聞かせる。
 劣勢な状態のまま、第6ラウンドの40秒が経過した頃、遥花がようやく反撃に出た。エリカの左ジャブを頭を横に振ってかわす。そこから上半身を左右に振らしていく。高速のウィービングで上半身を動かし続け、パンチの的を相手に絞らせない。インファイトを得意とする遥花が大事な場面で使うテクニック。この高速ウィービングは、体力の消耗が激しくて長くは続けられない。遥花はこのラウンドで倒す思いで技を繰り出している。
 ウィービングしながら徐々に距離を詰めていく。リーチにまさるエリカの左ジャブが遥花のパンチの間合いの外から放たれた。エリカのジャブが空を切る。エリカのジャブのスピードを遥花のウィービングが上をいく。勢いを維持しつつ一気に前に出た。
 近距離まで間合いを詰めた遥花がエリカの左腕が戻るより先に右フックを放つ。狙いはがら空きの左ボディ。ガードはもう間に合わないし、逃げられる距離でもない。右拳には充分な力が乗っている。深いダメージを与えられると確信する遥花。一方で、エリカが予期しない動きをみせる。彼女が選択したのはガードでも逃げでもなく反撃。右足を前に出し踏み込んで放たれたパンチは皮肉にも遥花と同じボディブローだった。遥花とエリカが渾身のパンチを振り合う。
 肉が押し潰されていく痛々しげな打撃音がリングに響き、それまで激しく攻防していた二人の動きが一転して止まった。
 右のアッパーカットをボディに突き刺しているエリカと悶絶して白目を向いている遥花。明暗がはっきりと別れた攻防の結末に場内が静まり返る。エリカに声援を送っていた観客は力強い挑戦者の姿に魅了され、遥花に声援を送っていた観客は凄惨な王者の姿に言葉を失った。
 遥花のお腹に深々と食い込むエリカの強烈な一撃。身体がくの字に折れ曲がり両腕までもだらりと垂れ下がる遥花はもう自力では立っていられなくなっていた。首で支えられなくなった頭はエリカの肩の上で頬が埋まり、四股の力を失った両足はぐにゃりと曲がり踵がキャンバスから浮いている。
 ライバルの顔の間近で醜く歪んだ顔を晒す遥花だが、もはやこの屈辱的な状況を把握できているのかさえ危うかった。瞳は何も捉えておらず、細く尖った口からはマウスピースがはみ出され、唾液が垂れ落ちている。
「汚らしいのよっ」
 エリカが不快そうに顔をしかめて言ったが、遥花は反応すらみせずにダメージに苦しむ表情をブザマに晒し続けるだけだった。
 エリカがめり込ませていた右拳を引き抜き半身を翻すと、支えを失った遥花の身体が前のめりに崩れ落ちていく。顔から沈み落ちお尻がつき上がる。頬がキャンバスに埋まり歪んだ口からはなおも唾液が垂れ流れ続けていた。
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 自動車のエンジン音が幾つも重なりけたたましい駅までの道を遥花は一人で歩く。誰かと歩く気にはなれないでいた。
 先ほど試合前の軽量を終えてきた。遥花もエリカも軽量を一度でパスして、後は身体を休めて明日の試合に備えるだけだ。
 余計なことは考えないで試合に集中しなきゃ。駅までの道の中で遥花は心の中で繰り返しそう呟いた。
 頭の片隅に残る軽量室での光景。ただエリカとユキトが共にしていただけ。たいした出来事じゃないんだから、気にしても仕方ない。明日の試合に負けるわけにはいかないんだから。
 信号が赤になり、遥花は立ち止まった。目の前で自動車が交わっては過ぎていく雑多な景色をぼんやりと見ていると、後ろから名前を呼ばれて思いきり肩を上げた。
 びくりと肩を上げたまま後ろを振り向くと、ユキトが立っていた。遥花は目を大きく開けた。
「橘君・・・どうしたの?」
「いや・・・軽量の時浮かない顔してたから気になってさ」
 ユキトはそう言うと、照れ臭そうに視線を外した。気まずくて遥花も斜め下に目を反らす。
「そうかな・・・」
  声が小さくなった。
「遥花ちゃん・・・」
 ユキトの声が神妙になる。
「なに・・・?」
 遥花は下を向いたままユキトの顔をちらりと見上げた。
「僕がいるともしかして闘いづらいと思っているんじゃないかって思って」
 遥花の心臓がドキッと弾んだ。
「そっそんなことないよ」
「ならいいけどさ。遥花ちゃん、優しいから」
 遥花は目を合わせられずにそんなことないと心の中で首を振る。声に出そうとして、先にユキトが続けた。
「仲間がいるとそりゃやりづらいよね」
 遥花は複雑な表情を浮かべた。仲間か・・・。ユキトの言葉を心の中で反芻した。無意識にボブカットの髪の毛先を指先で摘まみ擦る。
 信号が青になり、遥花は横断歩道を渡る。ユキトも横に一緒に歩く。横断歩道を渡りきりしばらくして、
「橘君・・・目は大丈夫なの?」
 遥花は遠慮がちに聞いた。
「ああ、これ」
 ユキトは左目を人指し指で指した。
「目は大丈夫だよ。ボクシングはもう無理だけど日常生活を送る分には問題ないから」
 ユキトは温和な口調で言う。
「そう・・・良かった・・・」
 目の話になっても嫌な顔をしないユキトの姿を見て、遥花はもう少し踏み込んでみようと決めた。
「橘君は西薗ジムにいて・・・辛くないの?」
「えっ・・・何で?」
 ユキトが目を見開く。
「世界戦を組まれたのが早すぎたから・・・あのジムにいたから橘君は・・・」
 息が苦しくて、それより先の言葉は出なかった。ユキトは前を向いて、
「あぁ・・・あの世界戦ね」
 と言った。ユキトが唇を閉じる。沈黙が出来て、遥花の緊張が一段と高まった。ユキトは前を見続けたまま、
「あれは僕が弱かった。それだけであって誰が悪いってわけじゃないんだ。目の前にチャンスがあれば掴みにいくものだと僕は思ってる。だからあの選択に悔いはないんだ」
 と言った。声も表情もさばさばとしていて、ユキトの中では気持ちの整理が出来ているのだと遥花は思った。自分もいつまでも気にしてちゃダメだ・・・。
 ユキトが遥花の顔を見る。
「気にしててくれたんだね。ありがとう」
 そう言って、ユキトは優しい笑顔をみせた。
 心臓がトクンと跳ねて遥花は目を反らした。頬に熱を感じる。遥花は下を向いて歩き続けた。
「それにさ、僕の夢は終わってないんだ」
「えっ・・・?」
 遥花は振り向いてユキトの顔を見た。
「人の思いは誰かに渡せる。選手だった時は思ったこともなかったけど、トレーナーになれて気付けたんだ」
 ユキトは朗らかな笑みを浮かべた。視線は遠くを見ているかのように少し上を向いている。
「夢を継いでくれる人がいてありがたいよ。トレーナーをやれて良かったと思ってる」
 そう言い終えて晴れ晴れとするユキトとは対照的に、遥花は表情を失なった。頭に白いもやがかかっていくような感覚に陥っていく。
「そう・・・」
 目を合わせることは出来ず、そう言うだけで精一杯だった。
 エリカが橘君の夢を継いだ。ユキトの言葉をそう受け止めてしまった。悪気があってじゃないのに、でも聞きたくなかったと思ってしまう。ユキトの言葉が頭から離れられず、思考がぐるぐるとループしていく。冷静でいられなくなった遥花は、駅に着いても心が揺らいだたままだった。
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