FC2ブログ

今日の更新

2016/11/26 Sat 17:54

こんばんわ、へいぞです。

小説がタイトルごとにまとめられている書庫のリンクですけど、これまでは最新話から下にいくように載せていましたけど、第1話から載る方法を知ったので変えてみました。たぶん、小説はこっちの方が読みやすいと思います。ブログで唯一不満に感じていた点を改善出来て良かったです(^^)

今日の更新は「希望はリングにある」第4話の掲載です。
未希と小泉の試合はヒートアップしていってます(^^)
スポンサーサイト
[PR]

未分類 | コメント(0)
 レフェリーがダウンを宣告した。
 裕子が苦しそうに息を荒げながらも右腕を上げて、喜びを表現する。
 お尻が突き上がり尺取り虫のような姿勢で顔をキャンバスに埋める未希。顔から赤い水溜まりが広がっていく。
 カウント5で上半身を起こした未希の顔面は真っ赤に染まっていた。
 カウント8でかろうじて立ち上がる。
 第1ラウンド終了のゴングが鳴った。
 深紅に染まる未希の顔を見て、貴子の顔色が青ざめる。
 スツールに力無く腰を下ろした未希の顔面を辰巳がタオルで拭き鼻血の手当てをする。鼻血が止まった未希に指示を出した。
「未希、左ジャブにボディを合わせるのはもう止めるんだ」
「そんな・・・あんなに練習したのに」
「次カウンターで合わせられたらおしまいだ。左ジャブから崩して接近戦に持ち込め」
 ジャブの仕草を交えながら辰巳は言う。
「左ジャブって、左ジャブの差し合いじゃ小泉に敵うはずないじゃない!!」
 貴子が声を張り上げた。
「分かってる。だが、それしか闘い方はないんだ」
 辰巳が苦汁に満ちた声を出す。
「未希、ボディブローを打てなくなったわけじゃない。チャンスは必ずまたくる。決して気持ちで負けるな」
 辰巳が顔を近付けて握り拳を見せると、未希は声を出さずに首を縦に降って頷いた。
 第2ラウンド開始のゴングが鳴った。
 裕子は第1ラウンドと同じようにフットワークを使いながら左ジャブを放ってくる。未希は自分のボクシングスタイルを捨てた屈伏した思いを味わいながら左ジャブで応戦する。
「どうしたの?左ジャブなんてらしくないじゃない」
 裕子が笑みを浮かべる。
 未希は言い返さずに左ジャブを打っていく。言葉じゃなくてボクシングで分からせるつもりだった。しかし、未希の左ジャブはことごとくかわされ、裕子の左ジャブだけが当っていく。技術の差は歴然だった。
 第4ラウンドの中盤に差し掛かった頃には未希の手は止まり、裕子が好き放題にパンチを打ち込んでいた。左ジャブと右ストレートのコンビネーションで中間距離から未希の顔面をパンチングボールのように吹き飛ばしていく。
 未希の顔面は原形を留めてないほどに腫れ上がり悲壮感に満ちていた。第2ラウンド以降一度もパンチを当てられずにいる。第1ラウンドに左のボディブローで裕子からダウンを奪ったのが遠い出来事のように未希は思えた。もう一度・・・もう一度必ず左ボディを当ててみせる。僅かな勝利の可能性を左の拳に託し未希は裕子のパンチに耐え続けていた。
「大好きな左ボディはもう打たないの。怯えていたらボクシングにならないわ」
 裕子が笑みを浮かべて挑発する。
「そんな安っぽい挑発に乗るもんか」
「だったらわたしのパンチで早くキャンバスに沈めてあげる」
 裕子はそう言い放つと前屈みに距離を縮め、大きく左足で踏み込んだ。
 未希のお株を奪う左のボディブローを打ち込む。
 さらに右のフックをテンプルにヒットさせ未希の身体を吹き飛ばした。
 なんとか踏みとどまった未希は左ジャブを放つが裕子にあっさりと避けられ、逆に手本を見せつけられるかのように左ジャブを連続して打ち込まれた。
 ガードすらままならなくなり、一方的に打たれ続ける。頬が水膨れしたかのような異様な腫れ上がり方をして、もはや別人といっていいほどに未希の顔面は醜く変わり果てていった。顔がほぼ無傷の裕子とは絶望的なまでに差が広がっていく。
 ダメだ、あたしにはやっぱり左ボディしかない。
 未希は裕子の左ジャブをかわすと、前に出た。
 ダメージの限界を感じた未希は一か八かの賭けに出た。
 裕子の右脇腹にボディブローを放つ。未希はこれ以上ないタイミングでパンチを打てた。しかし、裕子の右拳はそれよりも早く伸び上がっていく。
 グワシャッ!!
 裕子の右アッパーカットが炸裂した。会心のパンチも当たらず、希望すらも打ち砕かれた未希。ひしゃげた顔面から血が霧状に舞い散り両腕がだらりと下がる。目の焦点が合わず打ちのめされたように前のめりに崩れ落ちていく。
 会心の左ボディすら当たらなかった失望感に未希は気力さえも奪われていった。遠のく意識の中で映像が浮かび上がる。それはサンドバッグの前でひたすらボディブローの練習してきた自分の姿。
 練習は裏切らないって言葉があたしは好きだ。だったら当たるまで打つだけだ。
 未希は左足を前に出して踏ん張り、力の限り左拳を振り回した。未希の左拳が裕子の右脇腹に突き刺さる。裕子は苦悶に満ちた表情を浮かべ身体が硬直する。思いもしなかった未希の反撃に腹筋を打ち抜かれ、地獄のような苦しみを味わっていた。胃の中の物を吐き出してしまいたくなりそうな苦しみと呼吸が出来ない苦しみ。目からは涙が浮かび、必死に息を吸おうと唇の先が細く尖りマウスピースがこぼれ落ちそうになっていた。
 未希が左拳を引き抜くと、裕子の口からマウスピースが吐き出され全身の力が抜け落ちたように弱々しく前のめりに崩れ落ちた。
 レフェリーがダウンを宣告し、カウントが始まった。
 未希の大逆転劇に場内が沸き上がる。長く試合を支配していた裕子にとってそれは苛立たしいノイズでしかなかった。
 なによ、さっきまでわたしのボクシングに歓声を送ってたのに・・・。
 苛立ちを募らせる裕子だが、身体のダメージは深刻だった。両足に力が入らずに呼吸もままならない。無理して息を吸い込み逆にむせ込んだ。
「げあぁっ・・・ぁぁっ・・・」
 身体が丸まり右腕で腹をさすりながら悶え苦しむ声を出すその様に強かった裕子のイメージが崩れ落ちていく。しかし、裕子は観客の目を気にもせず、大声を叫びながら気合いで立ち上がった。
 試合は再開したが、十秒とかからずに未希の左ボディブローが再び炸裂した。
「ぶぅえっっ!!」
 裕子はくわえたばかりのマウスピースを早くも吐き出した。
 二発、三発と左ボディが打ち込まれた。裕子がたまらずガードを下げる。無防備になった顔面に激しい衝撃が走り、右に吹き飛ばされた。返しの左で逆へと吹き飛ばされる。裕子の顔面が未希のフックの連打で右に左に乱れ飛んだ。瞬く間に裕子の顔面が腫れ上がっていった。後ろに押されていきロープを背負い逃げ場も失った。未希のパンチの連打はさらに勢いを増す。裕子の目が弱々しく虚ろになる。
 もうダメかもしれない・・・。
「裕子~辛い時は練習を思い出せ!!」
 ロープ際でパンチの雨に耐え続ける裕子の背に届く声。昭夫がリングサイドで叫んでいた。
「どんなに辛い練習でも弱音を吐かず頑張ってきただろ!!」
 お父さんがわたしに激を飛ばしてくれている・・・。
 裕子の意識が呼び覚まされていく。
 わたしは・・・わたしは・・・。
 裕子が右拳を握りしめた。
 わたしは負けられない―――――。
 ラッシュをかけていた未希のパンチの踏み込みが増す。それはこのパンチで相手を倒すという思いの表れ。しかし、未希は知らない。自分を上回る勝利への執念が込められた一撃が迫っていることを。未希の左フックが空を切る。次の瞬間、凄まじい打撃音が生じた。
 グワシャッ!!
 未希の嵐のようなパンチの連打が止まった。裕子の右ストレートが未希の頬にめり込まれている。美しく決まった裕子のクロスカウンターに場内が静まり返った。数倍に膨らんだパンチの衝撃に未希の頬が潰され歪んだ口からはマウスピースがはみ出ている。身体がぷるぷると小刻みに震えるが、二人の腕が交差していて倒れることすら出来ずにいる。
「ぶほぉっ!!」
 未希の口からマウスピースが吐き出された。裕子が右拳を引き、未希が許しを得たかのように後ろに倒れ落ちていく。大の字になってキャンバスに倒れ込んだ。
 裕子が右腕を上げると、歓声が沸き上がった。
 カウントが進んでいくが、未希はぴくりとも動けない。
「未希~立って!あとちょっとだったじゃない!!」
 貴子の泣き叫ぶような激励にも未希は動けずにいた。
 貴子はそれでも必死に声を出す。何度も何度も未希の名前を呼んだ。
 そして、奇跡は起きた。未希がカウント9で立ち上がったのだ。
 試合が再開されたところで、第4ラウンド終了のゴングが鳴った。
 ファイティングポーズを取ったままその場に立ち尽くす未希が後ろに崩れ落ちていく。貴子が未希の両肩を後ろから抱き止めた。未希は貴子に肩を借りながら青コーナーに戻っていく。
「未希、しっかりして!」
 貴子の呼びかけに未希は小声で「あぁ・・・」と返すのがやっとだった。
 ようやくスツールに座れたものの、首が垂れた姿勢で今にも倒れ落ちそうだった。
「お父さん、もうこれ以上は・・・」
 貴子が辰巳の顔を見た。
「あぁそうだな・・・」
「待って・・・あたしはまだやれる。あと少しで小泉を倒せるんだ・・・。もう少しお願いだから続けてさせてよ会長・・・」
 未希の懇願に辰巳がじっとその目を見続ける。
「分かった。未希を信じよう」
 未希はうっすらと笑みを浮かべた。
「ガードを上げて一発にかけろ。いいな」
 未希は黙って頷く。
 一発に・・・。未希は心の中で何度も反芻した。そうしてなんとか今にも飛びそうな意識を繋ぎ止めていた。
 
 疲労とダメージの蓄積で意識が朦朧としながら赤コーナーに戻ると、そこには昭夫の姿があった。
「お父さん・・・」
 秋子が用意したスツールに座ると、すぐに昭夫に目を向けた。弱々しい目に映るずっと待ち望んでいた父の姿。ぼんやりとしていた裕子の意識が戻っていく。
「足に力は入るか」
「うん・・・」
「よしっ次のラウンド左ジャブで攻めていけ。深追いはするな。距離を取りながら攻めるんだ」
「分かった」
 インターバルの時間が終わり、裕子は立ち上がる。身体はぼろぼろなのに不思議と力は沸き上がっていくのを感じていた。
小説・希望はリングにある | コメント(0)

今日の更新

2016/11/21 Mon 20:45

こんばんわ~へいぞです。

今日の更新は「希望はリングにある」第3話の掲載です。
今回から試合に突入してます。

拍手ありがとうございました(^^)↓はコメントへの返信です。

>名無しさん
そうなんですよね。ラブコメ漫画としては面白いんですけど、ボクサーじゃなくてもよくって、金メダルが取れそうな才能あるアスリートと男との恋の物語になってる感じはあります。レスリングでも成立しちゃう感じもあって。
未分類 | コメント(0)
 試合開始のゴングを控え場内がざわつく中、レフェリーに呼ばれ、未希と裕子がリング中央で対峙する。裕子は目線を下げ合わせないようにしている。睨みつける気でいた未希は気が削がれ、代わりに軽口を叩いた。
「もう一度言うけど今日が決着戦だからね」
「どうでもいいって言ってるでしょ」
 裕子がぎろりと目を向け、苛立つように言った。裕子の態度を見て、未希は鼻を鳴らした。
「何よっ」
 裕子が睨みつける。
「別に・・・」
 未希はおどけた表情で答えた。
 青コーナーに戻ると、
「何がおかしいの未希?」
 と貴子が聞いてきた。
「顔に出てた?」
「ちょっとね」
 未希は口元を引き締め、
「前の小泉に少し戻ってるかも。勝ち気な感じがね」
 と言った。
「だから言ったでしょ。気にしすぎだって」
 そう言って、貴子がマウスピースを渡す。未希は会長である辰巳の顔を見る。
「会長、序盤からガンガンいっていいですか」
「どうした?」
「相手、気負っている感じがしたんで」
「よく見てるな。いいだろう、未希に任せるよ」
「分かりました」
 未希はマウスピースをくわえ、胸元で一度左右の拳を合わせた。
 試合開始のゴングが鳴った。未希がダッシュして一直線に向かっていった。
 振り向いたばかりの裕子をコーナーに釘付けにし、パンチを放つ。連打で一気に攻め立てる。ガードの上からかまわず叩いた。裕子の身体がコーナーポストに当り何度となく揺れる。
 左のボディブローが裕子にヒットした。肉を押し潰す感触が拳に伝わり、裕子が「がはぁっ」と苦悶の声を漏らした。
 追撃の右フックは空を切る。しかし、未希はそこで手を止めた。息を乱しながら、尻餅をついて倒れている裕子を見下ろす。
 やった・・・小泉を倒した・・・。
 作戦が思い描いていた以上に上手くいき、高揚感が広がっていく。
 レフェリーの指示でニュートラルコーナーに戻る。
 裕子はカウント8で立ち上がった。
 ダメージが深いとは思えなかったが、未希は試合再開と同時に一気に前に出た。裕子の左ジャブを掻い潜り、左ボディを再び放つ。右腕で防がれたものの、裕子が顔をしかめたのを未希は見逃さなかった。パンチの連打を放っていく。
 裕子が両腕を背中に回しクリンチをして凌ぐ。
 レフェリーに離され再び距離が出来たが、未希は手応えを感じていた。左ジャブに左ボディで攻める試合前に立てた戦法も通用している。この調子でいけば小泉に勝てる。
 左ボディを軸にした闘い方に自信を深めた未希はその後も裕子の左ジャブを何発かもらいながらも攻め立てた。
 裕子の右の脇腹は早くも赤く変色している。ダメージが蓄積されているのは明らかだった。
 また未希が前に出た。
 左ジャブに左ボディを合わせにいく。何度となく繰り返されてきた光景の再現を図る。
 狙いは上手くいった。裕子の左ジャブを未希は上半身を傾けながらかわし相手の懐まで一気に距離を縮めた。裕子の右の脇腹はがら空きだった。もう一度ダウンを奪えると確信する未希。
 グワシャッ!!
 車の衝突音のような激しい音が響き、血がキャンバスに飛び散った。裕子の右アッパーカットが未希の顔面にめり込まれている。未希のパンチは空を切り、裕子のカウンターが綺麗に成功していた。
 裕子がパンチを引くと右のグローブから血が糸を引いた。
 未希の鼻がひしゃげ血がボタボタと垂れ流れている。両腕がだらりと下がり、両膝がキャンバスにつく。そして、顔面からキャンバスに沈んだ。
小説・希望はリングにある | コメント(0)

本日の更新

2016/11/18 Fri 20:22

こんばんわ~へいぞです。

声を大にして言う話ではないんですけど、「早乙女選手、ひたかくす」を週に二度は読んでます。今週号を読んで改めて思ったのは、早乙女選手ンは素の表情よりも取り乱したときの方が可愛いなと(^^)

今日の更新は「希望はリングにある」第2話の掲載になります。
やっぱり、試合前に一度はライバルとの掛け合いのようなものがあった方がいいかなと思ってかきました。
未分類 | コメント(0)
 ホームルームが終わって教室を出た。このまま直接ボクシングジムへと向かう。
 気持ちは自然とボクシングへといきたいところだけれど意識は別のところに向かう。
 未希は息をついた。時宗に告白されて以来、どうしてもそっちに気持ちがいってしまう。もう一週間も経っているっていうのに。告白を断ったことを後悔しているからなんだろうか。それとも申し訳ない気持ちに苛まされてる?
 未希は額に手を当てた。どちらにしても断るしかなかったんだ。間違っているとは思えない。
「未希」
 声をかけられて後ろを振り向いた。貴子が駆けてきていた。
「ジムに行くんでしょ。わたしも一緒に行くよ」
「うん」
 貴子と並んで廊下を歩く。
「そういえば未希、面接はどうだったの?」
「受かったよ」
「良かったじゃない」
「別に落とすための面接って感じでもなかったし」
「それでも良かったじゃない」
 貴子の言葉に未希は反応を示さなかったけれど、気持ちが柔らぐのを感じていた。たいしたことじゃないけど、祝福してくれるのは嬉しいといえば嬉しい。
「それにしても思いきった選択したよね。大学行かないなんて。未希の学力なら行けるのに」
「プロボクサーになってボクシングのチャンピオンを目指してるのに、大学生活っていうのもぴんとこなくて」
「相変わらずストイック一徹だね」
「器用な真似が出来ないだけだよ」
 時が経つのは早いもので後二ヶ月したら学校を卒業する。四月になったら社会人だ。仕事は本屋の仕事で大手の純風堂書店。本を読むのが好きでこの仕事を選んだ。もっともボクシングに支障が出ないよう時間に融通が利くのが前提条件だったけど。大学に行くつもりだったのに止めちゃって不安がないわけじゃない。でも、ボクシングにだけは中途半端に向き合いたくなかったから。
「なんだかここのところ元気がないね」
「そう見える?」
「いつもはもっとよく喋るじゃない。覇気もない感じだし」
 未希は頭を掻いた。いつも通り振る舞っているつもりでも分かっちゃうもんなんだな。
「分かった・・・小泉と試合するからでしょ」
「そうじゃないよ」
「そうなの」
 貴子は意外な顔をする。未希は時宗が原因だからと心の中で呟いた。
 でも、と未希は思った。時宗だけが原因なのかな。貴子の言うとおり、小泉と試合をするからかもしれないし、社会人の道を選択した不安もある。三つの出来事が絡まってあたしの心を曇らせている。本当はどれが一番の原因なんだろう。
 未希は首を傾げる。
 さしあたっての悩みを口に出したら見えてくるのかもしれない。
「誰にも言わないでよ」
「何よ畏まっちゃって」
「実はさ・・・時宗から告白されちゃって」
 貴子が目を丸くした。
「それでOKしたの?」
「断ったよ。恋愛してる余裕なんてないからさ」
「もったいない。案外良い感じに見えるのに」
「今はいいんだ・・・」
「色ボケしているのはいいけど、敗けた時の言い訳にはしないでね」
 未希はびくっとして、声のした方を振り返った。
「小泉・・・」
 小泉が未希の横を通り過ぎ下駄箱まで行く。
「盗み聞きしといて偉そうなこと言わないでよ」
 小泉はこちらを見ずに下駄箱から靴を出す。
「あたしは一度勝ってるんだ。あんたにそんなこと言われる筋合いはないね」
 靴を履き替えていた小泉がこちらを見上げる。
「一勝一敗の五分でしょ」
「まぁそうだけどさ。どちらにしろ次で完全決着だ」
「どうでもいい。わたしはチャンピオンになりたくてボクシングしてるだけだから」
 そう言って、小泉は校舎を出て行った。
 未希と貴子はお互いに顔を見合せる。
「なんだか拍子抜け。もっと言ってくるかと思ったのに」
「わたしも・・・。前はあんなに攻撃的だったのに素っ気ないね」
「嫌なことは言われたくはないけど・・・」
 未希は両腕を組み首を左右に動かして、
「それはそれで調子狂う」
 と言って改めて息をついた。

 シャドーボクシングで大粒の汗が流れ落ちていく。目の前に浮かんでいるのは小泉の姿。スピードがある左ジャブをかわしながら左のボディブローを打つ。でもイメージする小泉を捉えることは出来ない。ことごとくかわされる。
 イメージの小泉を捉えられないまま三分終了のゴングが鳴った。
 これで今日の練習メニューを全てこなした。冴えないまま終わっていいものか。未希は首を傾げた。今日は練習を続ける気になれないな・・・。練習を切り上げて部屋の隅にある長椅子に座った。
 タオルで汗を拭きながら下を向いた。
 ダメだ、小泉に勝てる気が全くしない。今日こそは何度となくビデオで観て目に焼き付けた小泉をシャドーで捉えられると思ったのに。
「まぁた浮かない顔して」
 見上げると貴子が立っていた。
「まだ時宗君のこと気になるの」
「ばっ聞こえたらどうするんだよ」
 慌てて時宗の方を見たけれど、窓に向かいながらシャドーボクシングをしていた。
 未希は改めて貴子の顔を見た。
「今は違う・・・小泉のこと考えてた」
 貴子の表情が真顔になる。
「あいつ人間的に成長してるんだなって」
「それは小泉だってボクシングしてるわけだし」
「小泉の戦績は三戦三勝三KO。あたしは三戦三勝一KO。前から分かってはいたけど、あいつはやっぱり才能があるんだよね。でも、心は未熟だから精神力で勝てる。無意識にそう思うようにしてた。けど、小泉の心も成長してるとこみると勝てるのか急に不安になっちゃって」
「未希らしくないよ。心が成長してたからって精神力は未希の方が全然上かもしれないじゃない。前は未希が勝ってるんだから」
「そうだけどさ・・・。あたし、大学行くの止めて退路断っちゃったじゃん。でも、やっぱり不安なんだ。ボクシングでやっていけるのか。新人王になれたら自信もてるかなって思ってたけど、小泉が同世代にいる。あたしはチャンピオンになれるのかなって」
「未希でも不安だったんだね」
「まぁね」
 と言って未希は立ち上がった。
「話して少しは楽になったよ」
「またいつでも話していいよ」
「うん、ありがとう」
「あれっ・・・未希・・・時宗君だけどさ・・・」
「時宗のことはいいよ」
 未希は目を瞑り手のひらを断るように振った。
「なんか変な動きしてる」
「変な動き?」
「ほらっ」
 貴子の目線の先を未希も見た。
 時宗はシャドーボクシングを今もしている。でも、貴子の言う通りおかしな動きだ。パンチをゆっくりと出して引く時だけは早くしている。
「あんな打ち方教わってないよ」
「時宗君、結構独特の練習してるよ。シャドーだけじゃなくて」
「ふーん。基本無視してなきゃいいけど」
「未希も試しにやってみたら」
「あたしはいいよ。会長の教えで十分」
 そう言って未希は「じゃあね」と片手を上げて、シャワー室に向かった。部屋を出る時、気になってまた時宗を見た。今もおかしなシャドーボクシングを続けている。
 何の意味があるんだろう。考えてみたけど、検討もつかなかった。
 変なやつ・・・。
小説・希望はリングにある | コメント(0)

拍手コメントへの返信

2016/11/17 Thu 20:22

こんにちは、へいぞです。

拍手ありがとうございます(^^)↓はコメントへの返信です。


>名無しさん
ありがとうございます(^^)今作では小泉の萌え要素が増すことにもだいぶ力を入れて書いてます(^^)

未分類 | コメント(0)

今日の更新

2016/11/15 Tue 20:20

こんばんわ~へいぞです。

今日の更新は「希望はリングにある」第一話の掲載です。
先日完結した「ライバルは同級生」の続編にあたる作品です。
新しい未希シリーズは三部作を予定していて、その第二作になります。
プロボクサーになった未希と小泉の物語を楽しんでもらえたらと思います(^^)
未分類 | コメント(0)
 それはこれ以上ない不意打ちだった。
「未希ちゃん、僕と付き合わない?」
 ジムを出て二人だけで帰っていく別れ際、時宗はそう言ったのだ。
 未希は口をうっすらと開けながら、自分を指差した。時宗は笑顔で頷く。
「まいったな・・」
 未希は目を反らし、頬を人差し指で掻いた。
「うれしいんだけどさ・・・」
 一度目を瞑ってから時宗の顔を見た。
「何でこのタイミングで言うかな・・・」
 時宗は目をきょとんとさせる。
「何が?」
「あたし、大事な試合があるんだよ」
「試合ってまだ二ヶ月も先じゃない」
「そうだけどさ・・・でも、今回は相手が特別なんだ」
「あぁ・・・裕子ちゃんね」
 合点がいったのか時宗は首を少しだけ縦に振った。
「そう。だから集中させて欲しかったのに」
「返事は試合が終わってからでいいよ」
「ううん、どちらにしろ返事は変わらないから」
 そう言って、未希は頭を下げた。
「ごめん」
「そっか・・・未希ちゃんも僕に気があるかと思ってたんだけどな」
「いや・・・期待させたくないから言いたくはなかったけど」
 未希はまた目を反らす。
「好きか嫌いかでいえば好きだよ」
 未希の頬が赤く染まる。
「じゃあ何でさ」
「チャンピオンになるのが夢だから、恋愛する気になれないんだ」
「いいじゃない、ボクサー同士付き合うのも」
「あたしの考えは変わらないから」
「そっか。悪かった大事な時に」
 いつも温和な表情の時宗も流石に落胆した表情をみせて未希とは違う帰路を進んでいった。その背中から視線を外すと、あたしって馬鹿だよなと未希は声を漏らした。

 秋子が手にするミットめがけて裕子はパンチを叩き込む。ワンツー、上下の打ち分け、多彩なコンビネーションを放つ。
「ナイスパンチ」「そうその調子」
 秋子の小気味良い褒め言葉にのせられて疲れていてもリズムよく打ち続けられる。
 三分間の終了を告げるブザーが鳴った。
「よしっ今日はここまでだ」
 秋子がミットを下ろした。裕子は「ありがとうございました」と言って頭を下げた。秋子が近づいて声をひそめて言った。
「会長、裕子のこと褒めてたぞ、ここのところめきめき力を伸ばしてるって」
「でも、また試合にはセコンドについてくれないんですよね・・・」
「別に冷たくしてるわけじゃない。ただ距離の取り方を計りかねてるだけさ。また指導に熱が入るのを恐れてるんだよ」
 秋子の言うことは分かるし、気を使ってくれていて有り難いとは思っている。それでも、裕子は納得がいかず口をつぐむ。
「そのうち、ついてくれるようになるよ」
 秋子はそう言って裕子の肩をぽんと叩くと「おつかれ」と言って先にリングを降りた。
 裕子もリングを降りて長椅子に腰を下ろした。白いタオルを手にして頬を流れる汗を拭きながら息をついた。
 初めは父に褒められたくてボクシングを始めた。でも、今は違う。チャンピオンになりたくてまたボクシングを始めるようになった。だから別に前のように父がわたしに指導してくれなくてもかまわない。だけど、父とリングの上で喜びを分かちあえないのはやっぱり寂しい。いつまでこのぎこちない関係は続くんだろう。
 陰が落ちて裕子は顔を上げた。父の昭夫が目の前に立っていた。
「今日はもう練習終わりか」
「そうだけど・・・」
 昭夫が隣に座った。
「良い動きしてたぞ。調子が良さそうだな」
「うん」
 裕子は口を微かに開けた。
 父が初めて褒めてくれた・・・。
「次勝てば新人王だ。楽しみだな」
 裕子は唇を結んで目線を下ろす。高揚して気持ちの整理がつかないでいると、昭夫が立ち上がった。
 その場を離れていく昭夫の背中を見て声を出さずにはいられなかった。
「お父さんっ」
 昭夫が振り返る。
「次の試合勝てたら、これからはセコンドについてほしいんだけどっ」
 昭夫は数秒の間沈黙してから、
「分かった。次の試合期待してるぞ」
 と言ってくれた。
「うん」
 昭夫はまた背を向けて練習の場に戻っていく。裕子は昭夫の背中を見続けた。視界から無くなってから手のひらを握った。
 勝たなきゃ絶対。相手が未希だからとか関係ない。
小説・希望はリングにある | コメント(0)

コメントへの返信

2016/11/14 Mon 20:17

こんばんわ、へいぞです。

月曜日ということで、早速「早乙女選手、ひた隠す」を読みました。 早乙女選手の行動を見ていると、いやそこは試合に集中してよともどかしく感じてしまいます。でも、女性は感情で男性は理性で生きる生き物だとよく言われているように、早乙女選手の行動はまさに女性的な行動そのものであって、もどかしく感じつつもとても可愛らしくみえますね。試合は2ページで終りましたけど、ラブコメディだからそのへんはいいかなと思ってます。まぁ、早乙女選手が勝ってよかったかなと。少しは苦戦するのかなと思ってましたけど。

拍手ありがとうございます(^^)↓はコメントへの返信です。

>    
ありがとうございます(^^)たぶん、12年ぶりくらいの書き直しになります。今年になって「SHIROBAKO」というアニメ業界で働く女のこが主役のアニメを観て、年齢が近い女のこたちの絆って良いなぁと思いまして、今回はこういう終わり方になりました(^^)

未分類 | コメント(0)

今日の更新

2016/11/11 Fri 22:34

こんばんわ~へいぞです。

今日の更新は「ライバルは同級生」最終話の掲載です。
「ライバルは同級生」を書き直したのは小泉をもう少し感情移入できるキャラクターにしたい思いからでした。でも、いざ書き始めると、この物語の構図だと憎たらしい台詞を言わせないと盛り上がらないと気付いて、旧作とあまり変わらない口のきつい娘になり・・・(笑)それでも、未希と最後につながりのようなものを描けて書き直して良かったかなと思ってます(^^)

未分類 | コメント(2)
「ほらっガードが下がってるよ美奈」
 美奈と加代がスパーリングをする中、未希はリングの下から声を出す。美奈のガードが上がるのを確認すると、貴子の方に目を向けた。
 貴子はサンドバッグを叩いている。力みがなくて綺麗なフォームでパンチを打っている。流石は先月の冬のインターハイで全国大会に出ただけある。ここのところ著しく成長している。
 壁に張られている鏡の方に目を向けると、一年生の娘が二人ともシャドーボクシングをしていた。肩から突っ込んでパンチを打っているけど今は自由にやらせておこう。
 部室にいるのはこの六人。そう、六人に増えているのだ。小泉との試合を終えてから四ヶ月。女子ボクシング部は、冬のインターハイで二人が全国大会に出場する目覚ましい活躍をおさめた効果で新たに二人の部員が増えたのだ。
 小泉の方はどうなったかというと、時宗からの情報だと、その後父親のジムでボクシングを再開したらしい。秋子さんが言うには、元々父親っ子で一緒にいる時間を増やしたくてボクシングを始めた。でも小泉の才能を見た父親が指導に力を入れすぎてしまっために嫌になって辞めたんだとか。今度は父親と上手くいくといいねとか、そんな殊勝なことは思わない。小泉には負けてられないなとついライバル心を駆り立てられる。
 ボクシング部休止の問題もなくなったし、部活動に活気も増したし、一層気合いを入れて練習しなきゃといきたいところだけど、どうも気持ちが乗らずにいる。
 未希はまたリングの上のスパーリングに目を向けた。
 冬のインターハイで未希は全国大会二位の成績を残した。これまで公式戦で一勝もしてなかったのだから上出来すぎる結果だった。来年こそは優勝をと誓いをたてたいところだけど、十七歳になってプロボクサーになれる年齢になった。
 誰よりも強くなりたい。そう願っていた中でプロのリングに上がりたいという思いが芽生え始めていた。でも、みんなと練習する毎日も好きだし、女子ボクシング部は自分が創ったんだから途中で辞めるのは無責任だという思いもある。
 ゴングの鳴る音がした。スパーリングが終わって美奈と加代がリングを降りた。
「良かったよ二人とも」
 と声をかけると、美奈と加代は「ありがとうっ」と言って笑顔を向けた。
「みんなの練習見るのもいいけど、未希は練習どうしたの?」
 貴子がそう話かけてきて隣に立った。
「なんだか気持ちがね、そういう風になっちゃってて」
 未希は首を左に傾ける。
「まぁた何か思い悩んでるんでしょ」
「たいしたことじゃないよ」
「ならいいんだけど」
 席を外そうとして、また貴子に「ねえ」と呼び止められた。
「小泉なんだけどさ」
 未希は顔を素早く貴子に向けた。
「来月、プロのリングに上がるみたい」
「そうなんだ・・・」
 未希は目を大きく見開いた。顔が硬直していく。つい下を向いてしまった。平静を装おうと再び上げた。
「あの小泉がね」
 小泉がプロのリングに上がる。その事実を頭が認識していくほどに、小泉に先をいかれたみたいでなんだかすごく悔しい気持ちになった。小泉がボクシングから離れてた一年半、あたしはボクシングに向き合い続けてただけに。
 誰よりも強くなりたい。そう思ってボクシングをしていることがなんだか虚しく感じてくる。
 胸が急に苦しくなってきた。
 ダメだこれ以上ここにいると、表情に出ちゃう。
 未希は部室を出ようと出口に向かった。
「未希っどこに行くの?」
「外に走りに行こうと思って」
「ねぇ・・・本当は無理してるんじゃない?」
「何が?」
 未希は出来るだけ口元を緩ませて聞き返した。
「プロのリングで試合したいんでしょ」
「そんなことないよ」
「隠さなくたっていいんだよ」
「そんなことないっ」
 未希は声を荒げる。
「インターハイで2位になってからずっと考えてたんでしょ。未希が立ち止まれない性分なのは分かってるから」
 感情を乱して強く言ってしまったのに、それでも貴子の言葉は優しくて、未希は思わず目を下に逸らした。
「でも、あたしはみんなと練習するのが好きだから・・・」
「未希」
 美奈に名前を呼ばれて未希は彼女の方を振り向いた。
「あたしだって未希との部活は楽しい。でも、あたしはプロボクサーの未希を見たい。未希にはいつも前を進んでいてもらいたいから」
 美奈の言葉が心に染み入ってくる。
「そうだよ。未希は未希の道を進んで。未希がプロボクサーになるのはわたしらの励みにもなるんだから」
 加代も・・・。
「美奈っ、加代・・・」
 自分の道を進みたがっているあたしをみんなが応援してくれている。その心遣いが嬉しくて、でもあたしはそんなみんなとまだ練習をしたいとも思っている。
「でも、あたしは・・・」
 何か言おうとして言葉に詰まっていると、貴子が右手を握った。それから胸へとその手を当てられる。
 手から心臓の鼓動がとくんとくん躍動するように動いている。
「もっと自分の思いに正直になりなよ。ほらっ未希の心はこんなに高鳴ってるじゃない」
「あたしは・・・」
 胸に手を当てたままそう呟いて、自分の気持ちを知ろうとした。
 顔を上げると、貴子が優しい顔を向けてくれていた。手を握ってくれている貴子の手から温かな体温が伝わってくる。その温もりは未希の硬い心を解きほぐしてくれた。
 あたしは誰よりも強くなりたい。自分の思いが自然と聞こえてきた。貴子の手を両手で握りしめた。
「みんなのおかげで吹っ切ることが出来た」
 未希は笑顔をみせる。
「あたしはプロのリングに上がるよ」
 そう告げて、女子ボクシング部員みんなと拳を一人一人打ち合わせた。

おわり
小説・ライバルは同級生 | コメント(0)

今日の更新

2016/11/08 Tue 20:12

こんばんわ~へいぞです。

ここのところ、アニメの「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない」を楽しんで見てます。
漫画で連載されていた当時、リアルタイムで読んでいて久しぶりに物語を見てますけど、20年以上前だというのに当時よりも楽しめて
見ています。クライマックスに近づくにつれて岸辺露伴の登場回数が増えてきてますけど、思っていたよりも主要なキャラクターだったんですね。キャラクターにインパクトがあっただけじゃなくて、準主役といってもいいくらいに物語の主要な役割を果たしている印象です(準主役が誰かは人によって印象は変わると思いますけど)。「だが断る」という台詞は20年前のものなのに今もネット上ではよく使われてますし、岸辺露伴というキャラクターは改めてすごいなと思いました。「だが断る」という台詞は覚えていてもどういうシーンで出た言葉なのかは忘れていてアニメで改めてみて、岸辺露伴はかっこいいなぁと思いました。20年以上前の作品なのに古臭さは感じられないし今もクールでスタイリッシュに見えるあたり、やっぱり「ジョジョ」はすごいですね(^^)

本日の更新は「ライバルは同級生」第4話の掲載です。
未希と小泉の試合も佳境に入ってます(^^)
未分類 | コメント(0)
 第4ラウンド開始のゴングが鳴り、未希はコーナーを出ていく。
 気持ちを奮って向かって行くものの、小泉の左ジャブを先に浴びてその一発だけで後ろによろめいた。
 気持ちを持ち直しても身体は正直だった。急に身体が疲労に襲われ全身が水の中にいるかのように重たくなる。その場に立ち尽くす未希を前に、
「馬鹿ねぇ。あそこで止めとけばこれ以上恥をかかずにすんだのに」
 と小泉が挑発する。
 口を開けて呼吸を荒げるだけの未希に小泉は、
「もう話せる余裕もないみたいね」
 と言って距離を詰めに出た。
 小泉が左ジャブを連続して未希の顔面を打ち込んでいく。このラウンドに入って小泉が闘い方を変えてきていた。左ジャブを中心にしたオーソドックスなボクシングに。
 これが小泉の本来のボクシング・・・。あたしのジャブとはキレがまるで違う・・・。 
 小泉の左ジャブに未希はこれまで築き上げてきた誇りが打ち砕かれていく。
 小泉の左ジャブの連打の前に未希は近づくことさえ出来ない。
 未希は棒立ちになり、サンドバッグのようにパンチを浴びる。もう足を前に出す気力さえ残っていない。それでもまだ闘うことを止めない。貴子たち女子ボクシング部員の応援する声が未希を支えていた。
 みんなが応援してくれている。負けられないよ・・・。パンチをかわせないなら・・・。
 未希が再び前に出た。
 小泉の左ジャブが弾かれる。未希は顎を下げ額で受けていた。一気に距離を詰めて、小泉の脇腹に左のボディブローを打ち込んだ。
 小泉の口から唾液がポシャポシャッと吐き出された。
 未希はもう一度左ボディを打ち込んだ。小泉の身体がくの字に折れ曲がる。
 間違いなく効いている。時宗の言っていたことは当たっていたんだ。
 未希は左のボディブローに全てを託して攻めていく。小泉もパンチを打ち返してきた。二人が足を止めてノーガードで打ち合った。未希はボディに、小泉は顔面へとパンチを打ち込んでいく。とうに限界を超えて身体にダメージと疲労を負っている未希。貴子たちの声に力を与えてもらえて闘い続けることが出来ていた。
 だが、その奮闘にも限界がきた。小泉の左フックをテンプルに受けて三半規管が麻痺していく感覚に襲われた。
 次はもう耐えられない。次のパンチで倒さなきゃ・・・。
 未希は残された力を振り絞って左のボディブローを打ちに出た。貴子たちの声援に応えたい思いが込められた未希の全身全霊のパンチ。
 しかし、決まったのは――――。
グワシャッ!!
 重く鈍い強烈な打撃音が響き渡り、未希への声援が止まった。決まったのは小泉の右ストレート。未希のパンチは届かずに両腕がだらりと下がっていた。小泉の右拳が顔面にめり込まれたまま、未希は身体がぷるぷると震えている。
 小泉が拳を引くと、未希はひしゃげた顔面をあらわにし前のめりに崩れ落ちていった。無防備に顔面からキャンバスに倒れると、ダウンが宣告された。
「立って未希~!!」
「未希~!!」
 キャンバスに顔を埋めたまま動けずにいる未希に貴子たちの激励の言葉が何度となく送られる。立ち上がれるわけがない。もう試合は終わったという空気が場を支配する中、奇跡は起こった。未希はカウント9で立ち上がった。
 依子が再開の合図を出す前に前へとゆっくり進んでいく。
「ちょっと、未希!!」
 戸惑う依子をよそに未希は小泉に向かっていく。小泉もとどめを刺しにコーナーを出た。小泉の左ジャブをガードすると、未希は右のストレートを放つ。しかし、左のガードが下がり前の悪い癖が出ている。その隙を小泉が見逃すはずがなかった。もう一度カウンターを打ちに出る。
 これでおしまい。そう思われた次の瞬間、未希はパンチを避けていた。
 ガードが下がったのはあえて。小泉ならカウンターを打ってくるだろうと見越して。自分の悪い癖を利用した未希は隙だらけとなった小泉の右脇腹に左の拳を打ち込んだ。
ズドオォッ!!
 重たい打撃音が響き渡る。
 だが、パンチを打った直後に相手に身体を預けたのは未希の方だった。虚ろな目をして両腕がだらりと下がる。今のパンチで精も根も尽き果てた未希に小泉がぎろりと目を向ける。とどめのパンチを改めて打とうと右拳を引いて放った瞬間に小泉の身体がその場に膝から崩れ落ちた。
 依子がダウンを宣告する。
「バランスが崩れただけよ。効いてなんかないわ」
 小泉が余裕をみせながら立ち上がろうとキャンバスに左手をついたが、腰を上げた途端にバランスを崩しまた後ろに尻餅をついた。
「ちょっ・・・ちょっと待ってよ」
 余裕があった小泉の表情が崩れ取り乱した表情に変わった。
 カウントが進んでいく。
「効いてない!パンチなんか効いてないんだから!」
 小泉が太ももを手で打ち付けるが、腰が上がらない。
「ナイン、テン!!」
 依子が未希の右腕を持ち上げた。
 貴子と美奈と加代がリングに入って未希に抱きついた。
「やったじゃない未希!!」
 貴子の言葉に未希は、
「みんなのおかげだよ。みんなの声があったから頑張れたんだ」
 と言った。女子ボクシング部員たちと喜びを分かち合う中、リングを降りようとする小泉を目にして未希は声をかけた。
「小泉!!」
 小泉が力の無い目でこちらを見た。
「本当はまだボクシングをやりたいんじゃないのか」
 小泉の表情が固まった。
「だから、あたしに喧嘩をうってきたんだろ」
 小泉がきっと睨みつける。それから、目を瞑り顔を背けて、
「あなたにわたしの何が分かるっていうの。適当なこと言わないで!」
 と大声で言った。
「お前もボクシングが大好きだったんだろ。じゃなきゃあんなに良い左ジャブは打てないよ」
 小泉が弱々しい顔をして口を開ける。それから大粒の涙を流した。
「ボクシングしたくなったらまたいつでもきなよ。あたしが迎えうってあげるから」
 小泉は未希の言葉には返事をせずに右手で顔を伏せながらリングを降り、部室を出ていった。
小説・ライバルは同級生 | コメント(0)

コメントへの返信

2016/11/02 Wed 20:45

こんばんわ~へいぞです。

「綾音ちゃんハイキック」をネットで検索していたら、漫画版の2巻が中古で5400円になっていてびっくりしました。2巻は持っていたんですけど、今は手元にないんですよね(涙)

拍手ありがとうございました(^^)↓はコメントへの返信です。

>名無しさん
ありがとうございます(^^)開始早々の「がはあっ!!」は、漫画っぽい表現を意識してみました。闘っている主人公が「がはあっ!!」って血へどをはいて倒れてその週の話が始まるパターンを漫画では時々見かけて気に入っていたので(^^)
未分類 | コメント(0)
 | HOME |