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※この小説は漫画「ときめき10カウント」の二次創作作品になります。過度に暴力的な表現が含まれますので閲覧の際はご注意ください。


 高野~あたし、あなたのことが好き~

 リング上からの告白。由香理との試合に勝って興奮してたからって、なんであんな大胆なことしちゃったんだろう。試合を終えて校舎に入り、賑やかな場所から静かな場所に移って気持ちも冷静になっていっていた。十分前の自分に馬鹿ヤロ~って叫んでやりたくなる。
 控え室になっている教室まで高野の後をついて行っているけれど、恥ずかしくてその背中を見られなかった。目が地面へと向いてしまう。
 控え室の教室に入っても高野の方を見られなくて、みちるは背中を向けるようにして立ち止まった。頬が熱くなっていて顔が赤くなっているのが鏡を見なくても分かる。あぁ…どうしちゃったんだろうあたし…。バカだ、ホントにバカだよ、リングの上でみんながいる前で告白するなんて。
「みちる」
 高野に名前を呼ばれて、みちるは「はいっ」と言って振り返った。他人行儀な返事をしちゃった。高野を意識しているって気付かれたらどうしよう。みちるの顔はますます赤くなって、すぐにまた視線を斜め下に反らした。
「さっきの告白だけどさ」
 告白の件は意識しないようにしたいのに、高野の方から振ってきた。そういえば、返事をもらってないんだった。どうしよう断られちゃったら。それって十分あると思う。高野だってボクシングをしているけれどあたしみたいながさつな女よりもおしとやかな娘の方が可愛いと思うだろうし。
 いろんな思いが駆け巡りさらに動揺をしていると、
「返事なんだけどさ」
 と高野が言い、みちるは勇気を振り絞って前を見た。どんな返事でもちゃんと受け止めなきゃ。高野の顔を見ると、頬が少し赤くなっていて、高野も冷静でいられないんだってことが分かって、みちるも少し安心した。
「みちるに好きって言ってもらえて嬉しかった」
 その言葉を聞いて、みちるも嬉しくなった。そして、その先の言葉が待ち遠しかった。
「でも、俺たちまだ出会って一か月も経ってないし、それに俺はボクシングに集中して向き合いたい気持ちがすごくあるんだ」
「えっ…」
「だから、俺がボクシングで結果を残すまで、日本チャンピオンになるまで返事は待ってくれないか」
 受け入れられたわけでも断られたわけでもない。返事の先送り。高野の言い分はとても分かるけど、最高の結果を待ち望んでいただけに、やっぱりショックだった。
「うん、分かった。そうだよね、あたしたちまだ出会ったばかりだし、高野にはチャンピオンになるっていう夢があるんだもんね。待ってるよあたし、高野がチャンピオンになるまで」
 みちるは自分に言い聞かせるように言った。
「悪い、みちる」
「そんなことないよ。謝るなんて高野らしくないったら」
 相手をフォローできるくらいまでには落胆した心も取り戻せるようになっていた。みちるはいつものように憎まれ口を叩き、少しでも高野の心をほぐしてあげたかった。
「ありがとうみちる」
 高野に感謝されて、みちるはまたしても胸がときめいた。
 待つんだ、高野がチャンピオンになるまで。
 高鳴る胸を押さえようとしながら、みちるは心の中で自分に向けて言った。
「グローブ外そうか」
 高野が言って、みちるは「うん」と首を縦に頷いた。二人とも椅子に座り、高野がみちるのボクシンググローブの紐を外そうとしていると、
「ねぇ、高野」
 とみちるが言った。その後がなかなか喉から出なかった。
「どうした?」
 と高野が聞いていて、みちるは勢いに任せて言った。
「あたしもボクシングのチャンピオンを目指すしてるって前に言ったよね。だから、告白の返事はあたしも日本チャンピオンになるまで待ってくれる」
 告白の返事の条件を自分で上げてしまった。馬鹿だと思うけど、でも高野に先をいかれて高野だけ輝いてるのってイヤだったからどうしても高野の前で宣言したかった。
「あぁ、二人でチャンピオンを目指そうな」
 高野もようやく柔らかな表情になってくれた。
「うん、お互いチャンピオンになろうね」
 みちるは両拳でガッツポーズを作った。
「おいっまだグローブ外し終えてねぇって」
 高野が笑いながら言って、みちるは片目を瞑り舌を出した。
 高野からボクシンググローブを外してもらい、みちるは
「ねぇ、高野」
と言って、小指を曲げて差し出した。高野も「あぁ」と言い小指を差し出して、二人の小指が絡まった。
「二人の約束だな」
「うん、約束だよ」

「いよいよ初の日本タイトル挑戦になりますけど、意気込みを聞かせてもらえますか」
 取材に来たテレビ局のリポーターの男性がみちるにマイクを向ける。
「日本タイトルマッチだからっていつもと同じです。今回もKOで勝ってみせます」
 みちるは右拳を顔の位置まで上げてガッツポーズを作った。
「おぉっ、流石、竹嶋選手ですね。実はこの前に氷室選手の取材にも行ってきたんですけど、同じ質問をしたら勝ちますとしか言ってくれなくて。やっぱり、KO宣言が出ないと盛り上がらないですからねぇ」
 あの自信家の由香理が勝ちますだけ?みちるは少し拍子抜けした気持ちになった。日本王座決定戦だから立場は同じだけれど、戦績は自分が9戦9勝7KOで、由香里が8戦8勝4KO。ランキングも自分は一位で由香理が二位だから、戦績もランキングも自分の方が上だし、プロになる前にした決闘ともいうべき試合でも自分が勝っているのだから、さしもの由香理でも自信が持てないのかもしれない。みちるは試合に勝てそうな気持ちをさらに持って、リポーターの質問に答えた。
 テレビ局の取材が終わって、みちるはストレッチをしている高野に「ごめん、待った~」と声をかけた。
「いやっ、そんなことねぇけど」
 相変わらず高野はぶっきらぼうに答えるけど、気にしている風にはまったく見えなかった。
「じゃあ始めよっか」
「あぁ」
 みちると高野は向き合って、パンチを打ちあう。バンテージを巻いているだけの素手だからパンチは寸止めだ。身体に当たる直前で止めるマススパーでみちるはまず実戦の勘を磨いていく。スパーリングをするのはその後だ。スパーリングの相手をするのは、主に高野だけだから男子と同じ数のスパーリングをしていたらみちるの身体がもたない。そのためにマススパーの割合を増やして、実戦の勘を養っていた。
 プロボクサーになって三年。連戦連勝で無敗のまま日本王座に挑戦出来るところまで昇ることが出来た。高野とも毎日ジムで顔を合わせて、一緒に汗を流している。みちるは順調な日々を過ごせていると実感していた。でも、次の試合で負けたらすべて台無しになる。チャンピオンになるためにボクシングをしてきたのだし、それに相手は由香理だ。一度勝っているとはいえどうしてもライバル視してしまう。由香理がいたから、彼女に一度スパーリングで鼻をくじかれて同じ女の子で同じ歳でも自分よりも強い娘がいるんだってことを思わされたから、だからもっと強くなることが出来た。それに由香理も高野に思いを寄せていた。この三年間は高野に会いに来たところを目にしたことがないからもう諦めているのかもしれないけれど、由香理にだけは絶対に負けられないという思いがあった。
 それに日本チャンピオンになったらあの時の約束がついに果たされるんだ。高野は半年前に日本チャンピオンになった。あとはあたしが日本チャンピオンになればあの時の返事をもらえる。
 由香理とのタイトルマッチ、絶対に勝たなきゃ。
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小説・ときめき10カウント~あの時の約束 | コメント(0)
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