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 試合開始のゴングを控え場内がざわつく中、レフェリーに呼ばれ、未希と裕子がリング中央で対峙する。裕子は目線を下げ合わせないようにしている。睨みつける気でいた未希は気が削がれ、代わりに軽口を叩いた。
「もう一度言うけど今日が決着戦だからね」
「どうでもいいって言ってるでしょ」
 裕子がぎろりと目を向け、苛立つように言った。裕子の態度を見て、未希は鼻を鳴らした。
「何よっ」
 裕子が睨みつける。
「別に・・・」
 未希はおどけた表情で答えた。
 青コーナーに戻ると、
「何がおかしいの未希?」
 と貴子が聞いてきた。
「顔に出てた?」
「ちょっとね」
 未希は口元を引き締め、
「前の小泉に少し戻ってるかも。勝ち気な感じがね」
 と言った。
「だから言ったでしょ。気にしすぎだって」
 そう言って、貴子がマウスピースを渡す。未希は会長である辰巳の顔を見る。
「会長、序盤からガンガンいっていいですか」
「どうした?」
「相手、気負っている感じがしたんで」
「よく見てるな。いいだろう、未希に任せるよ」
「分かりました」
 未希はマウスピースをくわえ、胸元で一度左右の拳を合わせた。
 試合開始のゴングが鳴った。未希がダッシュして一直線に向かっていった。
 振り向いたばかりの裕子をコーナーに釘付けにし、パンチを放つ。連打で一気に攻め立てる。ガードの上からかまわず叩いた。裕子の身体がコーナーポストに当り何度となく揺れる。
 左のボディブローが裕子にヒットした。肉を押し潰す感触が拳に伝わり、裕子が「がはぁっ」と苦悶の声を漏らした。
 追撃の右フックは空を切る。しかし、未希はそこで手を止めた。息を乱しながら、尻餅をついて倒れている裕子を見下ろす。
 やった・・・小泉を倒した・・・。
 作戦が思い描いていた以上に上手くいき、高揚感が広がっていく。
 レフェリーの指示でニュートラルコーナーに戻る。
 裕子はカウント8で立ち上がった。
 ダメージが深いとは思えなかったが、未希は試合再開と同時に一気に前に出た。裕子の左ジャブを掻い潜り、左ボディを再び放つ。右腕で防がれたものの、裕子が顔をしかめたのを未希は見逃さなかった。パンチの連打を放っていく。
 裕子が両腕を背中に回しクリンチをして凌ぐ。
 レフェリーに離され再び距離が出来たが、未希は手応えを感じていた。左ジャブに左ボディで攻める試合前に立てた戦法も通用している。この調子でいけば小泉に勝てる。
 左ボディを軸にした闘い方に自信を深めた未希はその後も裕子の左ジャブを何発かもらいながらも攻め立てた。
 裕子の右の脇腹は早くも赤く変色している。ダメージが蓄積されているのは明らかだった。
 また未希が前に出た。
 左ジャブに左ボディを合わせにいく。何度となく繰り返されてきた光景の再現を図る。
 狙いは上手くいった。裕子の左ジャブを未希は上半身を傾けながらかわし相手の懐まで一気に距離を縮めた。裕子の右の脇腹はがら空きだった。もう一度ダウンを奪えると確信する未希。
 グワシャッ!!
 車の衝突音のような激しい音が響き、血がキャンバスに飛び散った。裕子の右アッパーカットが未希の顔面にめり込まれている。未希のパンチは空を切り、裕子のカウンターが綺麗に成功していた。
 裕子がパンチを引くと右のグローブから血が糸を引いた。
 未希の鼻がひしゃげ血がボタボタと垂れ流れている。両腕がだらりと下がり、両膝がキャンバスにつく。そして、顔面からキャンバスに沈んだ。
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小説・希望はリングにある | コメント(0)
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