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 第5ラウンド開始のゴングが鳴った。
 おぼつかない足取りでコーナーを出ていく未希に対して裕子はフットワークが戻っていた。
 リングの上を裕子が躍動する。音がしなくなった軽やかなフットワーク。パンチのスピードは増し、重みまでも増している。
 息を吹き返しただけでなく進化している裕子のボクシングに未希が翻弄される。ガードは簡単に崩され、威力が増した左ジャブに顔面を何度となく吹き飛ばされる。
 別人のように強くなっている裕子を前に焦燥感に駆られた未希は攻めずにはいられなくなっていた。
 距離を詰めてきた裕子に右ストレートを放つ。パンチを避けた裕子は一発当てると、距離を取るどころかパンチの連打で未希に負けない圧力をかける。
 未希も裕子も会長の指示を破り足を止めてパンチを打ち合った。焦燥した思いを消したくてパンチを打つ未希と自分を信じ自然と接近戦に応じていた裕子。同じ行為を選択した二人でも意志には大きな差があった。その差は残酷なまでにリングの上で反映されていく。未希のパンチは空転し続け、裕子のパンチが一方的に当たっていく。未希の手が次第に出なくなり、ついには裕子のめった打ちが始まった。裕子の流れるようなパンチの連打を浴び続けて、未希はボクシングすらさせてもらえずに不格好に踊らされていく。自分が得意とする距離でサンドバッグのように打たれる未希の姿に二人の試合は勝敗が決した空気が場内では流れるようになっていた。
 未希が裕子にめった打ちされるようになって20秒。圧倒的なスピードと研ぎ澄まされた集中力。裕子の強さだけが際立つリングの上で二人のライバル関係は終止符が打たれようとしていた。開花した裕子の才能に打ちひしがれる未希。そして、もう未希を特別な存在だと思えなくなった裕子。思いが交錯しなくなり、圧倒的な差がついた二人はもはや対等な関係ではなくなっていた。手が完全に止まり血飛沫を噴き上げるだけとなった未希に裕子が決別の一撃を放つ。裕子の右アッパーカットが未希の顎を抉った。
 グワシャッ!!
 骨が砕かれたような凄まじい音がして、場内が静まり返った。勝利を誇示するかのように右拳が伸び上がっていく裕子の力強く美しいパンチに観客の目が奪われている。
 顎を突き上げられ、両腕がだらりと下がり口からはマウスピースが吹き飛んでいく未希。血で赤く染まり高々と舞い上がっていくマウスピースがパンチの尋常じゃない威力を物語る。未希の両足がキャンバスから浮き上がり、血飛沫を撒き散らしながら背中から倒れ落ちた。リングの真ん中に両腕がバンザイして倒れたまま動けない。上半身が小刻みに痙攣を繰り返し白目を向いて天を仰ぐ未希の姿をライトが痛々しく照らす。裕子は返り血を頬に付け悠然とその姿を見下ろしている。
 勝者と敗者の姿にくっきりと分かれた、残酷な形で死闘を終えた二人。カウントはもはや不要だった。失神している未希に青コーナーからタオルが投入され、同時にレフェリーも両腕を交差した。試合終了のゴングが鳴り、レフェリーがその場に立ち尽くす裕子の右腕を上げた。
「勝者小泉裕子!!」
 大歓声が起こり、観客から拍手喝采が裕子に送られる。
 リングの中で裕子は昭夫と抱擁した。
「お父さん・・・」
 目を瞑りながら、父の温もりを肌で感じる。
「わたし・・・絶対にチャンピオンになるから」
 全身で喜びを感じながら父の前で誓った。裕子が最高の一時を味わう一方で未希の身体は痙攣が止まらず担架に乗せられてリングから降りようとしていた。もはや未希と分からないほどに瞼も頬もパンパンに腫れ上がり醜く崩壊した顔面にはタオルを伏せられている。リングの上で裕子への勝利者インタビューが始まる中、花道へ下がっていく未希は伏せられた顔を涙で濡らす。
 もう二度と勝てないんじゃないか・・・。そう思ってしまいたくなるほどの才能の差を見せつけられ、未希は希望を失っていた。


新人王トーナメント決勝戦

○小泉裕子(第5ラウンド1分25秒TKO)●相坂未希
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小説・希望はリングにある | コメント(0)
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